コラム


シリーズ 業種別会計の基礎 ― 受注制作ソフトウエア産業
第3回:受注制作ソフトウエア産業における「工事契約に関する会計基準」の適用に関する論点整理~その2~ (2009.05.11)
新日本有限責任監査法人 受注制作ソフトウェア産業研究会
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4.成果の確実性

基準は、工事進行基準、工事完成基準のいずれが適用されるかの判断に当たって、「工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する」と定めており、「成果の確実性」を判断基準としています。この成果の確実性が認められるためには、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度の各要素について、信頼性をもって見積もることができなければなりません(基準9項)。

4-1.工事収益総額の信頼性をもった見積もり

(1)基準のポイント

信頼性をもって工事収益総額を見積もるためには、その前提条件として工事の完成見込が確実であることが必要とされています(基準10項)。工事を完成させるためには、受注制作ソフトウエア企業にソフトウエアの制作を完遂する能力があることはいうまでもありませんが、外的要素として完成を妨げる環境要因が存在しないことも必要です。この前提条件をクリアした上で、信頼性をもって工事収益を見積もるためには、工事契約において当該工事についての「対価の定め」があることを基準は求めています(基準11項)。なお「対価の定め」は、対価の決済条件および決済方法に関する定めも含んでいますので、対価の額だけ合意に至ったのでは十分ではない点に留意が必要です。

(2)ソフトウエア制作の完遂能力についての判断

過去に実績のない大規模案件や、難易度の高い新規分野の受注を請ける場合における、ソフトウエアの開発を完遂する能力に関しては、収益認識の問題以前に、会社としてそもそも受注するかどうかが問われている部分でもあります。この点に関しては、案件の規模や難易度に応じた承認手続を定め、社内で十分な検討と審査を行うことが必要です。さらに、その過程を書面に残し、ソフトウエア制作の完遂能力についての会社の判断を合理的に説明できるようにしておくことも必要であると考えられます。

(3)受注制作ソフトウエアにおける「完成を妨げる要因」

ソフトウエア制作を完遂する自社の能力にかかわらず、外的な要因によって制作を完成させることができない状態が存在するとすれば、当該状況が「完成を妨げる要因」に該当します。受注制作ソフトウエアは、その取引慣行から、「仕様の確定に時間がかかる」、「契約の締結が遅い上に、契約書には十分な記載が行われていない」、「仕様変更が頻繁に行われ、当該変更によるやり直し部分のコスト負担についての責任が明確になっていない」、「一つのプロジェクトに複数のベンダーがかかわっており、他社の開発状況次第では想定以上の工数が必要となる」など、取引そのものの成熟度が低いと言われることが少なくありません。このような状況は取引の透明性を低め、取引を不安定にさせる要因となります。この結果、ソフトウエア制作の失敗や遅延、顧客との代金をめぐるトラブルなどにつながるリスクが高まるケースが想定されます。このような要因は、基準における「完成を妨げる要因」に該当すると考えられます。

(4)契約書締結前に作業を開始しているケースの取り扱い

ソフトウエア開発を受注するに当たって、契約締結前に作業を開始する実務が多く見受けられます。「仕様が固まらない」、「顧客の社内承認に時間がかかる」など、契約書の締結が遅延する理由はさまざまですが、契約が未締結の状態で、工事収益総額が信頼性をもって見積もることができると認められるのはごく限られたケースであると思われます。

内示書があればよいとする考え方もあるようですが、内示書は記載事項が千差万別であり、金額の記載がないものも多数見受けられます。また、内示書が発注権限を有する適切な権限者によって発行されたものでない場合には、発注が中止された際に、内示書の有効性をめぐってトラブルとなるケースも少なくありません。従って、内示書が入手できていれば工事収益総額を信頼性をもって見積もることができると単純に判断することは適切ではありません。基準では「対価の額」、「対価の決済条件」および「決済方法の定め」があることをもって「対価の定め」があると判断していますので、内示書にこのような記載が網羅されていることを確かめるとともに、発注権限者が発行した正式な内示書であることを確認した上で、工事収益総額の信頼性について判断することが必要であると考えられます。

なお、官公庁から受注するケースでは、落札から契約締結まで時間を要するケースが少なくありません。入札などによってあらかじめ金額が確定している場合で、かつ過去の取引実績から、落札価格に変更がなく、支払い時期、支払い方法が合理的に特定できる場合に限って「対価の定め」を満たしていると判断できる余地があると考えられます。

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