コラム


IFRS導入の世界での潮流と日本の対応―なぜIFRSが選ばれるのか―
第2回:IASBとFASBのMOUのアップデート (2008.10.16)
青山学院大学教授 橋本 尚

2002年10月、国際会計基準審議会(IASB)と米国の財務会計基準審議会(FASB)は、FASB本拠地コネティカット州ノーウォークで同年9月に開催された合同会議で、国内・クロスボーダー双方向けの財務報告に適用される会計基準の質の高いコンバージェンス(収れん)を目指して、世界の二大会計基準とも称される両基準の中長期的な統合化へ向けて、「覚書―ノーウォーク合意」を交換したことを明らかにしました。ノーウォーク合意は、中長期的な会計基準の国際的コンバージェンスの方向性を揺るぎないものとしたという点で、国際会計の歴史の新たな1ページを開く画期的な出来事でした。その後、05年4月には、米国証券取引委員会(SEC)から欧州委員会(EC)に対して、遅くとも09年までには外国企業の国際財務報告基準(IFRS)による財務諸表を米国会計基準への差異調整表なしで認めるとする「ロードマップ(行程表)」が提示され、コンバージェンスの達成へ向けて大きな前進が見られました(第1回で述べましたが、差異調整表は、07年11月16日以降終了する事業年度から撤廃されています)。SEC委員長の交代を受けて、06年2月には、ECのマクリービー委員とSECのコックス委員長との間で、差異調整表廃止に向けて双方が全力で取り組んでいくことが再確認される一方、同月、IASBとFASBは、新たな一里塚として、06年から08年までの両基準のコンバージェンスへ向けたロードマップに関する覚書(MOU)を公表しました。

MOUの検討対象項目は、短期コンバージェンス項目とその他の共同プロジェクトの二つに分かれています。短期コンバージェンス項目とは、08年までにコンバージェンスの達成または実質的な達成を目指す項目です。他方、その他の共同プロジェクトとは、08年までにコンバージェンスを達成することはできないものの、目に見える形でプロジェクトが進展することによって、ロードマップに示された目的の達成に寄与する項目をいいます(企業結合、金融商品(現行基準の改正)、財務諸表の表示、無形資産、リース、負債と資本の区分、収益認識、連結、認識の中止、公正価値測定、退職後給付(年金を含む)で、「MOU11」項目といいます)。

MOUに従って、IASBとFASBの作業は、着々と進行していますが、06年2月公表のMOUは、08年までの予想達成度を示したものでした。そこで、08年4月の合同会議でMOUをアップデートすることで合意し、同年9月11日付で「2006年2月のMOUの達成:経過報告と達成予定表」が公表されました。

最新版のMOUでは、短期コンバージェンス項目の進ちょく状況について、次のように述べています。

(1)完成したもの

米国基準をIFRSに合わせたもの―公正価値オプション(SFAS159号)、企業結合で取得した研究開発(SFAS141R号)

IFRSを米国基準に合わせたもの―借入費用(改訂IAS23号)、セグメント報告(IFRS8号)

(2)継続中のもの

IASB側

ジョイント・ベンチャーについては、07年9月に公開草案が公表され、09年初頭には確定基準が公表される予定です。法人所得税についても公開草案を公表する予定です。

FASB側

後発事象についての公開草案を08年下半期に公表する予定です。法人所得税、投資不動産、研究開発費については、短期コンバージェンス項目に関する戦略を見直した上で、IFRSと同様の基準を採用するか決定する予定です。

(3)延期したもの

政府補助金と減損

また、最新版のMOUでは、MOU11項目について、各プロジェクトの検討対象を見直し、可能な限り検討範囲を絞った上で会計基準として結実させるという方向性が打ち出されています。すなわち、MOU11項目のうち、すでに完成した企業結合と重要ではあるがほかのプロジェクトを優先させるべきとして検討対象から除外された無形資産、さらには、11年までの完成が困難であるとして除外された金融商品以外の8項目を11年6月までにコンバージェンスの達成を目指す項目と新たに位置付けて、現状や今後の日程と予想達成年を示しています。最新版MOUの内容は、合意形成のために、関係者を説得できる現実的なプロジェクトへと軌道修正を図ったものであるとともに、2011年からIFRSを採用することを表明している韓国やインドなど多くの国に対して、短期間のうちに会計基準の改正を重ねて行う負担をかけないように配慮したものとなっています。

財務諸表の表示 11年達成予定。改訂IAS1号を07年に公表済み。当初の範囲で検討中。
リース 11年達成予定。借手の会計処理に焦点を絞って検討中。
負債と資本の区分 11年達成予定。基本所有アプローチを採用。
収益認識 11年達成予定。顧客対価額アプローチを採用。
連結 09~10年に確定基準公表予定。支配概念の精緻(せいち)化とサブプライム問題への緊急対応。
認識の中止 09~10年に確定基準公表予定。基準の明確化。
公正価値測定 FASBは06年に基準公表済み、IASBは10年に基準公表予定。SFAS157号の考え方を採用。出口価値で測定。
退職後給付(年金を含む) IASBは11年に基準公表予定。遅延認識を廃止。

最新版MOUの公表を受けて、わが国の企業会計基準委員会も、07年12月公表のプロジェクト計画表を更新した最新版を08年9月19日に公表しています。最新版は、EUによる同等性評価に関連するプロジェクト項目(短期)、既存の差異に関連するプロジェクト項目(中期)、IASB/FASBのMOUに関連するプロジェクト項目(中長期)に、IASB/FASBのMOU以外のIASBでの検討に関連するプロジェクト項目(中長期)を新たに加えています。