1.上流事業の特徴
上流事業とは、化学製品がさまざまな生産工程を経て最終製品となる流れの中で、次工程における材料となるような「基礎化学品」を取り扱う事業を指します。特に無機化学工業製品や有機化学工業製品のうち石油化学製品などにおける基礎化学品が上流製品として代表的であるといえます。
上流事業の特徴としては、次のようなものが挙げられます。
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(1)設備産業
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①大規模プラント
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化学産業は典型的な設備産業であり、製品の生成には大規模なプラントを必要とします。
上流事業においてより大型の、より生産性の高いプラントを保有することは大きなメリットとなりますが、わが国において新規プラントの建設を行うことは資金採算面より困難であると考えられます。
わが国の石油化学企業においては工場・プラントの統廃合が進み、生産拠点は集約傾向にあるため、その設備投資も、新規プラントの増設ではなく既存設備自体の生産能力を増強するための戦略が採られることとなります。
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②大規模修繕
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大型プラントを保有する上流事業においては、プラントの生産能力を維持するために多額の保守費用も必要となります。通常、化学企業は年に一度程度製造ラインを停止してメンテナンスを行い、数年に一度は大規模修繕を行うこととなります。
このような定期的な修繕実施のためには多額の資金が必要となり、また修繕のために製造ラインを停止する間、製品生産を行うことができないことから売り上げへも影響を及ぼすこととなります。
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(2)原材料と価格転嫁
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資源の豊富でないわが国の化学産業においては、原材料は主として諸外国から輸入しています。このため上流事業の業績は原材料の価格変動、為替変動などに大きな影響を受けることとなります。こうした原材料の価格・為替の変動リスクをヘッジする目的で、企業は為替予約等のデリバティブ取引を行うことも多いといえます。
また、原材料の価格自体が市況により変動するため、その製品価格も市況価格に連動することとなるといえます。上流事業においては原材料の価格変動をいかに製品価格に転嫁できるかが重要な点となってきます。石油化学事業においては、製品価格の決定方式に次のような商慣行があります。
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(ナフサ連動)フォーミュラ方式
主原料等の市場価格を変数とした計算式により、製品取引価格が自動的に算出される方式。原料となる国産ナフサ価格に基づき3カ月ごとに改定を行うタイプが主流となります。例えば4~6月のナフサ価格を基として8~10月の取引価格が決定されることとなります。
フォーミュラ方式では原料価格の変動と製品価格の改定にタイムラグが生じますが、メーカー側と需要家側では価格交渉に長い時間や労力を割かずにすむメリットがあります。
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単価後決め方式
販売時点では販売単価を確定しないまま取引を行い、単価を後決めする方式。国産ナフサ価格は、全国平均の輸入ナフサCIF価格(ナフサ通関四半期統計より)に諸掛(金融費用、備蓄費、税負担等)を加えたものを基準として四半期毎に決定されます。販売単価の後決め時点とは「ナフサ通関四半期統計」発表時点以降であり、販売価格は一般的に国産ナフサ価格の決定と連動する形で交渉により決定がなされます。
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近年では、上記メリットの観点からナフサ連動型のフォーミュラ方式による販売価格の決定が増加してきています。
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(3)製品の特性
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上流事業製品はいわゆる「基礎化学品」であり、どの企業においてもほぼ同じ製法によりほぼ同質の製品となるため、上流事業は製品の差別化が図りにくい事業といえます。
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①低価格とコスト競争力重視
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低価格
製品に差別化が図れないため、必然的に競合他社との価格競争の傾向となり、その販売価格は低価格な水準になるといえます。そのため上流事業では一般的に利益率は低い水準となる傾向にあります。
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コスト競争力重視
製品価格が低価格水準となるため、上流事業においてはコスト競争力をアップすることにより利益率をアップすることが重要となります。各企業は生産拠点の統廃合、生産プロセスの合理化、エネルギーコスト・物流コスト等の圧縮改善などに取り組むものと考えられます。
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なお、わが国の製造業にかなりの程度共通することですが、人件費、土地代、物流費、電力費等はアジアや中東、欧米に比べて高水準にあります。さまざまなコストが高いことは各企業にとって大きな負担となっています。
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②交換(スワップ)
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上流事業製品は企業ごとに差異の少ない基礎化学品であることから、他企業間の取引で取り交わされる製品を自社の取引製品と交換するような「スワップ取引」も行われます。このようなスワップ取引には次のようなものが考えられます。
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ロケーション・スワップ
物流コスト削減の観点から、自社工場・倉庫よりも他企業の工場・倉庫の方が納品先に近くなるような場合、相互に納品先を交換する取引をいいます。
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タイム・スワップ
定期修繕に備え、自社製造が停止中の間に他企業より納品するよう相互に取り交わす取引をいいます。
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③共同支配企業の設立
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上流事業においては製品が同質で差別化されないことから、製品の生産に当たり、規模のメリットの追求が重要になってきます。同じ製品を生産するのであれば、競合会社同士であっても、一つの会社を設立して共同出資・共同生産をした方が、おのおのの工場で生産するよりも規模のメリットを享受することができます。このため、共同支配企業を持つことがあることも上流事業の特徴です。
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(4)比率生産、見込み生産
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化学産業は素材産業であり、製造期間も比較的短期であることから見込み生産が行われることとなります。その際、基礎化学品では連産品や副産物などが化学反応により常に一定の比率で生産されることとなります。
例えば電解ソーダ工業においては、塩水の電気分解により苛性ソーダと塩素が1:0.9の割合で製造されることとなり、この比率は変えることはできません。製造される苛性ソーダと国内需要との差を「インバランス」といいますが、製造割合が1:0.9であるのに対し、需要はほぼ1:1.3となっています。このようなインバランスを解消するために各企業は輸出入を行うなどの対応を取ることとなります。
上流事業においては、連産品や副産物などの「製造工程において産出される他製品」について、その需要を加味し収支構造の改善を図ることも課題といえます。
- 事例集
【事例分析】アニュアルレポート・決算短信英訳資料 公表会社分析(平成21年2月28日現在)(2009.06.11) - シリーズ 業種別会計の基礎 ― 化学産業
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