コラム

経営力の強化と信頼性向上に寄与
~IFRS導入企業が準備態勢や効果を討議(2009.01.22)


IFRS(国際財務報告基準)導入による日本企業への影響をテーマに、新日本有限責任監査法人(新日本監査法人)は12月3日、東京プリンスホテルで「IFRSセミナー」を開催した。第1部では国際会計基準審議会(IASB)理事の山田辰己氏が「IFRSを巡る世界の動向」について講演、IASBの組織と会計基準統合化の動きから今回の信用危機への対応まで幅広く論じた。 第2部では「IFRSを実際に導入するに当たり日本企業が直面する課題」を、日産自動車の野上肇氏、富士通の湯浅一生氏、ヤマハ発動機の佐藤郁裕氏の3人が、新日本監査法人IFRSデスクの河野明史氏の司会の下にパネルディスカッションを行い、導入準備の組織作りから経営効果などを巡る議論に、約550人の参加者は熱心に聞き入っていた。


富士通株式会社 財務経理本部
IFRS推進室 室長 湯浅一生氏(写真左上)

ヤマハ発動機株式会社 財務部会計基準統一グループ
グループリーダー 佐藤郁裕氏(写真右上)

日産自動車株式会社 経理部連結会計グループ
主管 野上肇氏(写真左下)

新日本有限責任監査法人
IFRSデスク パートナー 河野明史(写真右下)


財務諸表の透明性が向上


河野

3社ともグローバルな事業展開などを背景にIFRSを導入、あるいは導入の検討を始められたわけですが、何がきっかけだったのですか。

湯浅
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富士通は1981年にロンドン市場に上場し、90年に英国企業のICL(現富士通サービス)を買収したことなどから、欧州でのプレゼンスが高くなっていました。EU上場企業に対して2005年からのIFRS適用が義務づけられたため、結果的に外国企業は猶予されることにはなりましたが、コンプライアンスの観点からIFRSの検討を始めました。
検討を始めた頃、海外グループ会社の業績が悪化するなど、グループガバナンスの基礎としての経営管理インフラを整備・強化する必要性を痛感し、グローバルに統一した会計基準であるIFRSを導入すべきだという意識も高まりました。こうした事情を背景に、2004年に財務経理本部にIFRS推進室を設置し、IFRSへの取り組みが重要な経営課題の1つとして全社的に認知されるようになりました。

佐藤
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ヤマハ発動機はまだ、IFRSを全面採用し、それに基づいた財務情報を開示する方針を決めたわけではありません。取り組みのきっかけは、何よりも経営の質の向上を実現することです。当社は海外子会社を数多く抱えているため、IFRSを導入し、海外子会社を共通の会計基準で評価することで経営のレベルアップにつなげたいと考えています。
さらに、IFRSを意識せざるを得なくなったもう1つの要因として、売上高の海外比率が90%と非常に高いことがあります。投資の意思決定や業績評価には統一の基準が必要ですからね。また、株主構成では海外投資家の持ち株比率が40%弱に達しており、財務諸表の透明性や比較可能性などの観点からもIFRS導入への期待が大きいと思われます。

海外法人との調整も重要に


河野

欧州でのIFRS導入に際しては、準備のプロジェクトチームにいろいろな形がありましたが、どのようなチームで導入に取り組まれたのでしょうか。

野上
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日産自動車の場合は、1999年にルノーの出資を受けたことが背景になっており、IFRS導入に的を絞った活動ではなく、日産グループの財務マネジメント業務の大幅な見直しを目的に、2001年5月から「レポーティング&コンソリデーション・プログラム」というプロジェクトを立ち上げました。これはトップダウン方式による日産グループの活動で、プロジェクトはPMO(プロジェクトマネジャーと数人のメンバーによるコミッティー形式)がリードしました。
実務的には、その下に具体的なテーマに対処する15のサブプロジェクトのチームを置き、連結が主、単独は従という「連主単従」の考え方により、財務情報開示の早期化、月次連結決算、日本基準とIFRSによる連結財務諸表の作成、グループでの勘定体系の統一化、新連結システムの導入などに取り組んできました。

湯浅

当社の場合、IFRS推進室のメンバーは8人で、1人は既にIFRSを適用している富士通サービスからの出向者です。具体的なアプローチとしては、日本基準の枠組みの中で会計方針を変更し、グローバルに統一してきました。受注ソフトウエアの進行基準適用や低価法の早期適用、償却方法の変更など、いずれも会社の仕組みの見直しとともに実施してきました。
2008年度からグローバルな経理規定を適用し、海外グループ会社はすべてIFRS準拠としています。この規定を作成するに当たって、海外のCFOやコントローラーを含めてコミッティーを結成し、海外の実務と日本の実務との調整に力を入れました。現在は、IFRSを導入することで国内のグループ会社にどのような影響があるかを中心に作業を進めています。

全社的なルール作りと啓蒙を


河野

IFRS導入に関わるプロジェクトを進める過程で苦労されている点も多いと思います。それは、どのような問題でしょうか。

佐藤

当社はプロジェクトのオーナーが経営トップで、経営陣がIFRS導入に前向きだったため、プロジェクトはスムーズにスタートできました。苦労しているのは、IFRSを全面採用することで、これまでの会計業務と大きく変わってしまうことです。「原則や基本を忠実に理解して実態で判断しなさい」と言われますが、現実には答えは容易に出せません。1つのポリシーを決めても、関係者の理解不足もあって、どう定着させるかが課題になります。
また、日常業務を行っている中にIFRS導入という長期の目標を持ち込むのにも苦労しました。日常業務では短期の目標が優先されがちなので、プロジェクトの活動に現場を巻き込むのも大変でした。IFRSの導入では、末端の全員に切迫感を植えつけることが勝負どころになると思われます。

河野

基準作りをはじめ、グループ全体への浸透など、様々な苦労があると思われますが、にもかかわらずIFRSを導入してよかった点は・・・。

野上

第1に挙げられるのは、日本基準による財務諸表を含め、財務情報の質が格段に改善したことです。以前は開示フォーマットに基づいて連結パッケージ情報を集めていたため勘定の定義が不明確で、正確さに不安を感じながら財務諸表を作成していたこともあり、新しいプロジェクト体制の下で勘定体系ごとに連結パッケージを集約しました。勘定体系はグローバルで700に及び、勘定定義書は100ページにも上りましたが、IFRSに準拠する会計基準書を作り、監査法人のチェックを受けたうえでグループの統一したルールとしたことで、透明性も信頼性も大幅に向上しました。

河野

IFRS導入に際しては、従来の会計方針をあまりいじらずに済ませるのか、既存のものは破棄してフレッシュスタートにするのか、それらの混合型か、考え方はいろいろですが、プロジェクトの早い段階で意思決定を行うことが、方向性の明確化につながると言えます。本日は貴重な体験、ご意見を披露してくださり、ありがとうございました。

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日経ビジネス 2009年1月5日号 掲載