評価範囲を決定するのはあくまでも経営者自身である

実効性を低下させずにコストの軽減をめざす
しかし、3分の2程度の事業拠点をというと、大きな対応というイメージがある。
「確かに、小さくはありませんが、過大に対応する必要もありません。日本には現在約3700社の上場企業がありますが、連単倍率の平均は約1・22倍です。見方を変えれば、多くの企業が連結売上高の80%以上を本社で上げていることになります。つまり、評価の対象を本社だけに限っても、ほとんどの企業で『上位から概ね3分の2程度の事業拠点』をカバーできることになります。
また、実施基準案では、重要性の判断指針として、内部統制の重要な欠陥を定義しています。その内容は『一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性があるもの』となっています。内部統制の不備が重要な欠陥に該当するか判断する際には、金額的な面および質的な面の双方について検討を行うわけですが、金額的な重要性の判断として、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断するとし、『連結税引前利益の概ね5%程度』が例として示されています。質的な重要性の判断は、たとえば、上場廃止基準や財務制限条項に係る記載事項などに与える重要性での判断です。しかし、『連結税引前利益の概ね5%程度』についてですが、利益ゼロの会社ならいくら5%をかけてもゼロということになります。数値基準は目安であり、利益金額が一時的に著しく少額になっている場合など、特殊な状況下においては、別途の適切な指標を適用すべきです。
『3分の2』や『5%』という数字は、あくまでも企業の実態を反映させるというための目安であり、決して戦々恐々とするものではないことが理解いただけると思います」。
「ただし、忘れてはならないのは――」と、持永代表社員は付け加える。
「過大な対応を求めないとお話ししましたが、それが実効性を低くすることになってはなりません。評価の絞り込みは、あくまでもコストの軽減を目指すものであって、リスク・マネジメントがいいかげんでよいというわけではないのです。特に、経営者が率先して内部統制強化に取り組む意識が重要です」。
実施基準案は、新しい制度を運用するにあたり、想定される混乱を回避するためのアイデアを提供するものと理解すべきだろう。決して「これさえやればよい」と示すものではない。自社内にリスクがあると思われる点があるならば、それに対処するための内部統制システムを構築するのも、経営者の役割であるといえる。

実施基準案の公表以来、「内部統制の評価範囲の決定」に記載されている『3分の2』や『5%』といった数字ばかりが注目されているが「最も留意すべきなのは、企業の経営者自身が評価の範囲を決定するということです。企業グループの全社的な観点『トップダウン型』から、どこにどのようなリスクがあるかを見極めて評価範囲を決定する手法『リスク・アプローチ』が求められます」と持永代表社員は次のように警鐘を鳴らす。
「実施基準案では『経営者は、全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて、業務プロセスの評価の範囲を決定する』としています。全社的な内部統制の評価範囲とは、原則として、すべての事業拠点について全社的な観点で評価します。また、業務プロセスのうち、決算・財務報告に係るプロセスについても、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、原則として、すべての事業拠点について全社的な観点で評価します。ただし、影響の重要度が僅少である事業拠点は評価対象から除外することができます」。
3分の2程度という数値が出てくるのは、あくまでもその次のステップだ。
「複数の事業拠点を有する企業の場合、重要な事業拠点を選定する際に、たとえば、売上高などの指標を用いることができます。実施基準案では、『企業により事業又は業務の特定等が異なることから、一律に示すことは困難』としながらも、上位から概ね3分の2程度の事業拠点を選定することを例示しています。ただし、装置産業などの場合は、総資産金額など、売上高以外の異なる指標や追加的な指標を用いることがあります。選定された重要な事業拠点につき、事業目的に大きく関わる勘定科目(一般的な事業会社では、売上高、売掛金、棚卸資産)に至る業務プロセスについては、原則としてそのすべてのプロセスを評価の対象とします。
このほか、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加します。たとえば、金融取引やデリバティブ取引などのリスクが大きい取引、引当金や繰延税金資産など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目、期末直近の多額な売上など非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いもの、その他特定の取引または事象といった業務プロセスです」。