コラム

日本は世界の不動産証券化市場をリードしうる(2004.10.01)


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スタートしてわずか3年足らずで、J-REITは時価総額が約1兆3000億円(2004年5月末現在)の市場規模に 成長した。これは60年代に出発した米国の、92~94年当たりのボリューム。米国の30年間分を、10倍の速度でキャッチアップしたと言える。

なぜ、J-REITは成功したのか、そして、残る10年分の開きをこれからどのように埋めていくのか… 日本が世界の不動産証券化市場をリードしていくための要件を、わが国における不動産金融工学のパイオニアである、早稲田大学大学院ファイナンス研究科の川口有一郎教授と、 J-REIT市場そのもののフレームワーク作りに大きな足跡を残した新日本監査法人の金融サービス部原田昌平代表社員との対談の中から浮かび上がらせたい。


顔写真
  • プロフィール

    早稲田大学大学院 ファイナンス研究科 教授
    川口有一郎氏(写真右)

    新日本監査法人 代表社員 公認会計士
    原田昌平(写真左)



問われるフォワードルッキングな能力

原田

先生の研究科はこの春に開講したばかりですね。受講生はどういった方々ですか。


川口

平均年齢が33歳です。私のクラスの例では職種で言えば金融と不動産が半々です。投資家サイドの方もいるし、オリジネーターの方もいる。10年くらいのキャリアを持ったプロが大半ですね。


原田

となると、かなり高いレベルからスタートすることになりますね。


川口

ですから、とにかくケース・スタディーです。日本はバックワードルッキングと言いますか歴史が好きで、特に大学では過去を体系化するのが学問ということになるのですが、私たちの領域の場合は概念だけでは教えられない。実際のマーケットの今に肌で触れていなければなりません。

受講生にしても、日本は基本的に米国をキャッチアップしなければならないわけですから、その軸上に的確に絵を描ける能力が問われます。いわゆるフォワードルッキングです。そういう意味では、原田さんはMBAの受講生が模範とするべき専門家であると理解しています。ファイナンスと不動産の両方を理解して近未来を描き出される。以前、あるフォーラムでご一緒させていただきましたが、減損会計導入後の企業の対応について的確に指摘されたことが強く印象に残っています。


原田

お褒めの言葉をいただいて恐縮です。たしかに、常に先を読んで監査法人として何ができるかを考えているということはあります。

J-REIT市場の創設当時はスポンサー会社との利益相反防止が大きな課題でありましたが、第2フェーズに入った現在の市場では、安定的な不動産の供給を制度的にサポートすることが重要になると考えています。先生は先見的な試みとして不動産金融工学という米国にもないコンセプトを打ち出されマーケットの最前線を理解された上で理論を展開されていらっしゃいますね。


川口

米国と同じことをやっていたのではいつまでたっても追いつかないので、枠組みだけは出させていただきましたが、私一人で創ったわけではなく、今、みんなで創っているところです。

キャッチアップと言えば、原田さん、あるいは原田さんの仕事場ということになるのかもしれませんが、J-REITがここまで来るのに果たされた功績は大きかったと思います。


原田

微々たるものかもしれませんが、私どもの監査法人というのは独立性と公正性が存在理由であり、社会的にミッションを負託されているわけですから、そういった見地からも取り組んでまいりました。投信法の改正によりJ-REIT市場の創設が見込まれたときも、他の会計事務所より1年も早く社内にJ-REIT委員会を設置し、US-REITのトップファームであるアーンスト・アンド・ヤングとチームを組んで、税務や会計の制度設計のみならず具体的な領域にまで踏み込んで提言をさせていただきました。

米国で起こったことは日本でも起こると言いますが、日本と米国では不動産市場の状況は全く異なりますし、REITの制度自体もかなり違います。米国での経験をいかに日本の市場で生かすか、工夫が必要なところです。


川口

日本は翻訳文化と言いますか、専門家による調査団といっても本質は伝わっていないケースが多い。その点、原田さんのところは日米の違いというのを十分に理解されたうえで公正な立場から助言をされている。土地情報開示のワーキンググループに原田さんの部下の方が出席されていたのですが、常に論点を適切な方向へ戻していました。


流動化の蛇口を細めているもの

原田

いま土地情報開示のお話があったのですが、日本の不動産証券化も黎明期を脱して安定期に入りつつあるわけですね。しかし、新しいマーケットがもう一皮剥けないのは、情報開示をはじめとする制度的な立ち遅れがあると思うのです。特に不動産の供給不足が問題となっており、差し当たってはUP-REIT(※)が導入されなければならないと考えるのですが、いかがでしょう。

  • (※)不動産をJ-REITに譲渡する際に生ずる売却益への課税を一定時点まで繰り延べることを認める税制上の制度。米国では当該制度が導入されてからREITの市場規模が飛躍的に拡大した。

川口

UP-REITについては急務ですね。米国の税当局の譲渡益課税への態度ですが、どうせ取れるのだから5年とか10年とか長期で回収すればいいと考えている。REITに不動産を入れる段階で課税しなかったことが、92年の爆発的なREIT市場の拡大につながったわけです。ところが、日本の税当局はとにかく毎年回収で一貫している。そのために優良物件の蛇口が細って圧力だけが高まり、歪みが出ています。


原田

その結果が、いわゆるファンドバブルですね。キャップレートが下がったという見方もありますが、優良物件が限られていることから、プライベートファンドも含めて争奪戦が起こり、取得価額が上がるという側面も見過すことが出来ません。当然、その後のファンドの正常な発展を阻害します。


川口

今、J-REITが約1兆3000億円ですが、合理的な投資として不動産に向かおうとする潜在的なおカネは5兆から10兆円はあると思います。仮にUP- REITでその規模が実現したとすると、つまりは日本の不動産市場は完全に回復するということですね。その完全回復を蛇口を細めて阻んでいるのが、回復を望んでいるはずの旧大蔵省の財務省というおかしな図式になっている。


原田

そういう意味では、何のためにJ-REITを導入したのかということですね。一時的な課税の繰り延べを認めても、これは不動産の供給を促進し、不動産市場の発展とその結果としての税収増に繋がるはずだというお話しですよね。


川口

そこが分からない。過去の金融制度と決別しなければJ-REITは生まれてきません。日本には既に上場不動産会社が存在していたわけですからね。

の悩ましい決断にあえて踏み切ったのは、金融資本市場中心のマーケットに切り替えてゆく突破口として、日本の富の大半を築いてきた不動産のおカネの流れを変えなければどうにもならないという判断を迫られたからと思います。なのに、UP-REITがいけないというのでは、整合性がまったく取れない。金融と財務が分かれてしまった弊害なのでしょうが。


原田

その原点に立ち返って、日本の不動産市場全体が満遍なく活性化する道を追及していただきたいですね。J-REITがここまでになったのは、まさに過去と決別して税制をはじめとする制度を整備したことと、最初は債務圧縮というネガティブな要因からですが、流動性を求める大きな動きがあったと思います。

不動産証券化の本質は流動性の確保にあるわけですから、そこを絞ったら証券化そのものが進みません。


川口

オフバランス化して借金の返済に当てる企業もあるでしょうし、設備投資に回して強い米国・大きい中国と対抗する企業もあるでしょうが、とにかく最適な資産構成のための前提として流動性確保の条件は整っていなければなりません。となると、さらに大きな問題はやはり土地情報の開示ですね。