コラム

CSRのポジション(2004.10.21)

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CSRは企業経営に追加されるものではなく、
中核に据えられなければならない

昨今、CSRほど、同じ言葉で違う概念を語り合っているケースは少ないかもしれない。

ある人はコンプライアンスの延長線で唇を動かし、またある人はメセナを想起する。本来、CSRは企業経営のどこに位置づけられるべきものなのか…。

経済同友会前代表幹事として、わが国のCSRの流れを牽引した富士ゼロックスの小林陽太郎取締役会長と新日本監査法人の大久保和孝が向き合った。


顔写真
  • プロフィール

    富士ゼロックス株式会社 取締役会長
    小林陽太郎氏(写真右)

    新日本監査法人 CSR推進本部 公認会計士
    大久保和孝(写真左)



CSRとは


大久保

最初に、CSRの概念を整理したいと思います。CSRは同じ言葉で語られながらも、実際は異なる対象を指していることも珍しくありません。そこで、小林会長にまずお尋ねしたいのですが、会長はCSRは「企業の社会に対する責任」であると指摘されていますが、どのように捉えるべきとお考えですか。


小林
顔写真

CSRの日本語訳については「企業の社会的責任」が一般的になっていますし、あまり難しく注文をつけるのもどうかとは思うのですが、いわゆるトリプルボトムラインを想起していただくと分かりやすいのではないでしょうか。言うまでもなく、これは欧州で発生した企業業績評価の考え方で、経済的側面だけでなく環境的側面と社会的側面にも同時に配慮して評価していこうというものです。CSRを「企業の社会的責任」と定義した場合、私が危惧するのはこのトリプルボトムラインの社会的側面だけをカバーするものと解釈されてしまいかねない、ということです。

すなわち、トリプルボトムラインのうち、社会的側面だけがCSRなのではありません。経済面、環境面、社会面…3つの責任を全体として果たしてはじめて、企業の社会に対する責任を全うすることができるのです。CSRは企業経営の中の一部でなく、企業経営そのものであり、それが、私があえて「企業の社会に対する責任」という表現にこだわっている理由ですね。


大久保

会長がおっしゃられる「CSRは、企業経営そのものだ」という点は私も強く感じます。私はCSRは企業経営をはかる一つの“モノサシ”と考えています。しかし、その“モノサシ”の尺度は、日本でも昔から取り組まれてきたことそのものに感じます。最近でこそ、「CSR」という表現が頻繁に使われていますが、 CSRの本質は、これまでの企業活動の中で形づくられてきたものではないでしょうか。


小林

CSRという言葉自体は最近のものですが、その意味する本質はずっと存在してきたと思います。地域の別なく、長期にわたって好不況の波を切り抜けてきた優良企業のほとんどは、CSRを継続して実践してきた企業であると言えるでしょう。


CSRは古くて新しい議論


大久保
顔写真

ご指摘のとおり、CSRは決して新しく生まれた概念ではないと思います。しかしながら、これほどまでCSRが注目される直接的な契機はいわゆるコンプライアンス・レベルでの企業不祥事が相次いだことと、企業を取り巻くステークホルダーズがかつてないほどに多様化・変質化していることが大きいのではないかと見ています。この点、会長はどのようにお考えでしょうか。


小林

ステークホルダーズに対する視点は極めて重要ですね。企業が社会に対する責任を果たすと言った場合、その社会というのは具体的にはステークホルダーズであるわけです。CSRが最近頻繁に取り上げられている背景のひとつには、大久保さんがおっしゃられるステークホルダーズの多様化があるでしょう。特に資本市場が極端に大きくなった80年代後半から投資家の性格が変わってきたことがポイントだと思います。いい会社の株は長期に持つという投資家が減り、ネットトレードなどの普及とともに短期的視点で行動する投資家が増えてきました。しかし、このような状況だからといって、投資家という特定のステークホルダーに偏り短期的な利益を優先した企業活動をすることは、かえって企業の信頼を下げることにつながりかねない。そこで投資家以外のステークホルダーズともいい意味でバランスが取れる企業活動を実践することが必要であるとの認識が高まってきた。すなわち、CSRの議論の高まりの考え方の基礎には、ステークホルダーごとのバランスを取らなければならないという認識があるのではないかと思います。


大久保

会長がおっしゃられた「ステークホルダーごとのバランスの取れた活動」は非常に大切であると思います。企業は自社を取り巻くステークホルダーズを把握することからはじまり、個々のステークホルダーとコミュニケーションをとっていくのですが、その際のバランス性はとても重要と考えます。