アウトソース社会で重要性増すソリューションとしての監査(2004.12.17)
インターネット上で多様な知が出会い、結合する。その力がどのような社会構造を築くのか、またそれを促す条件とは何か。慶應義塾大学の國領二郎教授は、この問題に対して一つの考えを提示した。「オープン・ソリューション社会」がそれ。
その前提となっているのが、互いの信頼性がいかに担保されるかである。中立の第三者として信頼性の付与に現在の監査法人はどのようにかかわれるのか。新日本監査法人社員で公認会計士の鈴木淳二氏が國領教授とともに検証する。
- プロフィール
慶應義塾大学 環境情報学部 教授 國領二郎氏(写真右)
新日本監査法人 社員 公認会計士 鈴木淳二(写真左)
ありがとうございます。ITは言うまでもなく道具、手段であって目的ではありません。ですから、それを使って何ができるか、つまり、ソリューションが重要なのであり、その文脈で「今、どのような仕組みづくりが可能か」を考えてみたのです。
最も注目したのが、断片化されている多様な知が結合されることで生み出されるパワーです。思いを同じくするさまざまな人たちがネットを介して意見や情報を交換しています。この仕組みを生かすことで、どのような社会モデルを描けるのか。同時に、環境問題や高齢化問題などで欠落していた視点、言葉を換えれば情報の断片化が社会にもたらしていたダメージも推し量ることができるのではないかと考えたのです。
信頼性の上に成り立つ来るべき社会モデル
そうした構想自体が、監査という中立的な業務にかかわる私たちにも大変、示唆に富んでいると感じたのです。というのも、断片化された知の統合とは、見知らぬ相手との知の共有であったり、取引のなかった人と取引を始めたりすることですが、そこでは見知らぬ相手に関する信頼性の付与という問題が避けて通れないと思うからなのです。
ネットを活用する人が皆、善人であるなどと考えるのは理想に過ぎます(笑)。インターネットは、人が結び付くための開かれたプラットホームを提供しますが、そこを舞台に具体的な社会の仕組みやビジネスを構築しようとすれば相互信頼が不可欠です。つまり、第三者間の取引を活性化する基盤においては「信用と信頼」が最大の付加価値であり、必然的に第三者認証が不可欠なのです。
ところで、オープン・ソリューション社会では、いわゆるアウトソーシングによる分業も増えますね。先生は、「アウトソーシングの本質は、最良の経営資源やノウハウの結合である」と書かれていますが。
そうですね。アウトソースが従来以上に増えていくのは間違いありません。それはビジネスの効率性の点からも追求されるはずです。必要なすべての機能を自前で抱え込む必要はなく、各種の機能について最も優秀な企業にお願いすればベストプラクティスやベストプロダクツが結合して新しい価値を生むからです。
監査法人の立場から申し上げますと、基幹業務システムのアウトソーシングが広く普及した現状を踏まえて財務諸表監査を行なう場合、独特な課題が生まれます。委託先に監査人が乗り込んでいいのか、乗り込まなければいけないのか、という点です。委託契約上、どう決められているか、という話ではなく、実務慣習として現実的なのかという話としてです。
アウトソーシングが普及していくと、場合によっては受託企業は年中、ユーザー企業の監査人の監査を受けていることになりかねない。それもほぼ同じ内容でです。それは非効率的なので、業務委託先の内部統制に関する監査手続きの定型化が行なわれています。米国基準、日本基準ともに、日本の監査法人が実施しています。日本基準では通称、「18号監査」と呼ばれる日本公認会計士協会の「監査基準委員会報告書第18号」による監査、米国基準では通称、「SASセブンティー」と呼ばれる米国監査基準書第70号のことです。これは、受託企業がその監査を受け、委託者であるユーザー企業に報告書を配布することで、ユーザー企業ごとの監査人による監査の代替となる仕組みです(図参照)。これを実施するかどうかは、委託の対象業務が、委託元企業の監査上、どれほど重要であるかの判断によります。ただ、それとは無関係に、受託企業としては、この監査を任意で受けることで顧客獲得上の差別化をすることも考えられます。
アウトソーシングという知の結合形態で忘れてならないのが、いわゆる「丸投げ」の問題です。「自分のところにはないノウハウを持っている相手にアウトソースしているのだから詳しいことはわからん」というのではじつは知の結合ではない(笑)。情報システムのアウトソースにしても、システム自体が企業の存続を左右しかねない重大な経営要素になっているのですから、そこにどんなリスクがあるか、どのような備えがあるかなどを知るのは経営者としての最低の責務です。全体の業務フローのPDCAとアウトソースする部分がしっかり見えており、そのうえで全体のPDCAサイクルを回すことが大事なのです。

國領先生は先頃、『オープン・ソリューション社会の構想』を著されましたが、「分断されていた多様な知がネットワークを介して結合され、新たな価値を生み出そうとしている」という問題意識は非常に刺激的でした。